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シナプスのすきま

若手舞台俳優オタクが語りたいだけ語るところ

映画「第九条」を迷ったけど観て良かったという話

※映画「第九条」のネタバレあり

推し(好きな俳優さん)が出てる映画「第九条」、大阪でも上映開始したので観てきた感想。ちなみに9月25日、幸運にも聡太郎さんの舞台挨拶がある日だった。


正直、推しがこの映画に出演すると知ったときに思ったのは、「ああ、こういうのには出てほしくなかった」ということ。長年オタクを続けてネット社会に親しんでいると、ネトウヨだとかネトサヨだとかの過激な人たちの論争ばかり目にする。それに現実社会でも“熱く語りすぎると必ず誰かが不快になるタブー”といえば政治と宗教だと思う。推しには、そういったややこしいことには関わって欲しくなかった。というか正直に言うと、私も一応第九条に関して自分の意見というものを持っていて、それと違うことを推しが言うのを見たくなかった。どうせこういうのは改憲派が作った映画で結論は憲法破棄なんでしょ?って想像してたし。
だから「第九条」も観に行くかどうか最初は悩んでいた。けど、やっぱり推しの出演作はちゃんと見ておきたい。食わず嫌いはだめだよね。そう思って、唯一行けるこの日に観てきた。

「第九条」のあらすじは、公式サイトをご覧いただくのが一番だと思う。
dai9jo.localinfo.jp

でも一応ざっくり書くと、西暦20XX年という架空の時代、憲法第九条の「維持」か「破棄」かを決めるために各年代に諮問委員会を作り、議論してもらって全員一致の意見を出してもらうことになった。ということでランダムに選ばれて集まった20代の男女が、ひたすら第九条について議論する話。
だから撮影場所はずっと会議室。ずーーっと会議室。議論の休憩時間に登場人物は部屋の外に行ったりしているけれど、外は一切映らない。まあだから、観ていてちょっと肩が凝るのは仕方ない。頭も使うから、疲れる覚悟だけはして観に行ったほうがいい(笑)
あと、「維持」か「破棄」かを決める話し合いなので、「破棄だけど徴兵制核兵器だけは絶対NGにしたいなあ」といった細かいところは、議論の対象じゃないらしい。

さて、さっそく結果から言うと、観て良かった!
予想していた内容とは違った。政治的な話ではなくて、どちらかといえば国民個人に寄り添った考えを元に議論されていた。
ネトウヨとかネトサヨのような極論は出てこない。でも、作中で出る意見はどれもリアルだった。戦争になってもいい、戦う覚悟はあると意気込むやや過激な人、多少ファンタジックな理想論を語る人、自分の子どもたちの未来を考える人、もっとマクロに地球規模の平和を考える人――色んな人物がいた。ああ、こういう意見の人実際いるよね、私はあの人の意見に近いなあ、と頷いて観ていた。

議論の流れも秀逸だった。まず憲法そのものの内容や成り立ちの解説があって、そこから徐々に展開されていく。
アメリカ人が作った憲法を今も維持し続けるのはいかがなものか? どうとでも解釈のできる曖昧な憲法は一旦破棄するべきではないのか? 過去に日本が起こした戦争は、侵略戦争だったのではないか? 日本に強い軍隊があったら拉致問題は起こらなかったのではないか? 自分の愛する人が殺されそうならどうか? もっとリアルに、自分自身が戦争に行って人を殺すことを考えたら? どんな人でも大切な人を守るためなら咄嗟に暴力を振るうものだから、その爪を剥ぐのは間違っているのでは? しかし人間の暴力的な本能や争いに憧れる気持ちに歯止めをかけるためにも、厳しすぎるくらいの第九条は必要なのでは? そもそも争いが起こらなければ良いのなら、人類全体、地球規模のことを考えたら?
少しずつ議論の幅が広がっていったのでわかりやすく、観ていて登場人物の意見に共感したり、知らなかったことを聞いて驚いたり、ときどき「何を言ってるんだこの人は!」と腹が立ったりした。自然と、あの場の登場人物たちと一緒になって議論に参加しているような気分になった。
先にも書いたように、私には自分なりの意見があった。でも、第九条についてすごく詳しいわけでもなく、家族と話して考えたこととか、自分の信じるものとかの影響で「こう」と決めたという感じだった。「第九条」を見ながら、私の意見は何度も破棄に傾いたり、維持に傾いたりした。登場人物でいうとあのアパレル店員の子に近い心情だった。あの人物、この映画を飽きさせないかつ観る人の共感を得るためにとても重要だと思う(笑)
何度も傾いて、どちらの意見にも深く納得する部分があり、今まで全然知らなかったことを知り、「維持」か「破棄」かどっちかというのは決めかねるなあと思ったところで、最後のシーン。司会進行役を務めていた弁護士の男性が問う。「第九条、維持か破棄か。あなたの意見は?」会議室を右、左と見渡して、最後にカメラ目線で、真に迫った表情で問うのだ。
どきっとした。ああ、これは私たちに向かって問いかけているんだ。
結局この20代の諮問委員会が出した結論は、スクリーンに映し出されなかった。

エンドロールを眺めながら、私は結局、自分のこれまでの意見から変わらないなあと気が付いた。色々知ったし、揺らいだけれど、自分の元々の考えにより自信を持つことができた。きっと他の人たちも、そうなったと思う。
観る人へどちらかに偏った考えを勧めるようなことは、一切なかった。ただ本当に、あらゆる面からみた第九条が深く深く語られた映画だった。

観る前は「出てほしくなかった」と思っていたけれど、推しが出なかったらこういった映画は一生見なかったと思うし、存在すら知らずに終わっていたかもしれない。
だから、彼が出てくださって良かった。

観に行くか迷っている人は、ぜひ観て欲しい。ただし、観ている間絶えず考え続けて疲れるということを覚悟して行ってください(笑)